日本の生産性は低いのか?
アメリカにしばらく住んでて思うことは、日本という国がいかに住みやすい極楽かということです。
たとえば日本でラーメン屋に入ります。店員の元気なかけ声とともに、速やかに座席に案内されます。キレイに掃除されたテーブルや椅子、見やすくわかりやすいメニューと穏やかな店員の無駄のない動き。注文から10分も待てば世界一美味しいラーメンが運ばれてきます。麺のゆで具合も完璧、スープも極上の旨さ。さくっと食べ終わって満足のお会計…東京でも平均800円とかで収まりますよね。
これがニューヨークの軽食店なら…まずどこに並ぶのかわからない。他の客の動きを見て注文カウンターを見つけると「次!」と、店員の怒号に近い声が飛ぶ。しかめ面の店員はメニューを睨む客を睨みつけ、「決まってないなら次!」とあっさりパスされます。字だけのメニューについて質問しても満足な回答はおろか、取り合ってくれないことも。そして、出てきた料理は強烈な塩味か無味、量だけはアメリカンサイズ。ペナペナの食べにくいナイフとフォークでなんとか平らげるとそのお値段は2000円。
中古車屋では50万円以下のクルマはシャシーのサビと異臭と黄色く曇ったヘッドライト、明らかにおかしいエンジンの音と排ガスの臭いが間違いなくついてきます。「もうちょっと程度が良くてお買い得なのないですかね〜」「カネ出さないとないよそんなもん。」こんなやり取りは普通です。
役所に行けば「書類が足りない。これでは処理できない!次!」。書類は足りているはずなので質問しようと役所の人に再度尋ねると、「質問はあちらのカウンターへ行って」。カウンターへ行くと「このカウンターで質問するならまずチケットを取ってあの列へ並んで」。チケットを取り、30分待って質問すると「あなたの滞在資格ではあちらのカウンターね」。むむ…。
日本では1時間仕事が外国では1日仕事のことがままあります。特に大都市圏。
郵便も事故だらけ。カリフォルニアに送った荷物がプエルトリコで迷子になり、せっかくeBayで180ドルで売れた商品もカリフォルニアの先方に届かず取引キャンセル、返金対応。アメリカの郵便局、USPSにクレームをつけようとメールするもカリフォルニアの郵便局からは「うちには届いていない。差し出し局でクレームして」。差し出し局の本局に向かい、クレームすると「上司に聞いておくので連絡先よろしく」と言ったきり音沙汰なし。Webサービスからクレームを入れるとようやく50ドルは補償します、とのことでした。もっと補償が必要なら保険に入るようにと言われて終了。郵便事故は最近25回に1回ぐらいは起きているような感覚。
生活していく中でいろんなことがこんな感じです。予約しても「明日だと思った」、連絡を入れておいても「上司に連絡したのかもしれないが、私は聞いていない」、高額なケーブルテレビ(月2万円ぐらい)のサービスが不調(チャンネルがいくつか映らないのがある)でも「今はコロナなのでどうしようもできない」というようなことを平気で言う。そして、風景の良いサンフランシスコの2階建てビルの屋上レストランを2時間借りるだけで30万円、ロクに仕事もできないエアコン修理工でも1時間2万円のフィーを取ります。
こんな感じのアメリカと比べて「日本の生産性は低い」とよく言われますが、みなさんはどう思いますか?
日本は低価格で高品質なサービス。アメリカはより高額で、満足度の低いサービス。生産性が高いのは日本の方ではないの?
生産性とは、より少ない資源で、大きな付加価値を生み出す力のことですよね、そもそもは。ただ、それを定量的に数字で表現しようとするとどうしても、投入したお金→回収できたお金の比率になってしまいます。
日本とアメリカの例で、生産性をザックリ計算してみます。
■日本:原価(材料費、店の賃貸費用、人件費、光熱費等)600円のラーメンは800円、利益は200円
■アメリカ:原価1200円のラーメンは1600円、利益は400円
パッと見たところ、アメリカでのほうが2倍、利益が出ていますよね。売上も2倍。ただ、原価も2倍、もっと言えば利益で生活していくときの生活費も2倍。同じことやっていても、周辺の環境でお金の動くボリュームが違うんですね。単純に、GDPはこれの集まりなので、日本とアメリカで同じことやってたとしても、GDPは2倍、ひいては生産性も2倍とか言われるんです。
ここで、日米のラーメンクオリティ(ラーメンの味、店員、店の清潔さなど)からくる満足度を、ラーメンの値段で割ってみると…
■日本:低価格(800円のラーメン)で満足度80→1円あたりの満足度=0.100
■アメリカ:高価格(1600円)で満足度は65→1円あたりの満足度=0.043
スコアにすると日本100に対してアメリカ43ぐらいなわけです。こちらもかなりザックリですが、全てにおいてこんな感じです。とにかく、何をするにも金は倍かかります。ただ、逆に言えば日本のサービスで価格に表れていない(客が支払っていない)分を誰が負担しているかと言えば、企業(研修費用)や従業員(人間性、優しさ、客への自発的ホスピタリティ)だったりするんですね。ちゃんとした店員はちゃんとした研修や親の教育など、客の目には見えない(=客が支払っていない)部分の費用負担が多分にあります。日本の企業や社会はこれをちゃんとやっているんですね。
アメリカの店員はテキトーでも勤まります。よっぽど流行っているスーパーでもしっかりしているのは店長とサブぐらいのもんです。ヒラ店員は何がどこに売っているか把握していないし、口の聞き方も知らないし、見た目に違うメロンの種類を聞いても「まぁ、一緒です」って答えるし。素直に「知らん」って言えや。なので、アタリの店員を引いて問題が解決するまで同じ質問を5−6人にしたりします。その客の労力を軽くするためには本来、店側が金と時間をかけて店員をきちんと教育しておくべきなんです。でもアメリカの企業はそれをしない。その費用を客に負担させている上に、代金だけはガッツリ取るわけです。で、周りの店も会社もみんなそうなので、全然成り立っていくわけです。
資本主義でのスコアは、投入した資本からどれだけの利益が上げられるかなんですね。少ない投資でどれだけ儲けられるか。売れるなら、客が快適に買い物できようがそうでなかろうがあんまり関係ない。とにかく儲けたもん勝ちの風潮は徹底しています。
なので、アメリカではどれだけ客に尽くしても売上が一定な役所ではサービス最悪、死にたくないから行くような病院では、患者が死ぬギリギリ、目一杯の治療費を巻き上げようとします。そこにもしいい医療保険を加入してようものなら、入院患者のもとにはその病院で一番いい医者が主治医として担当し、回診1回で20万円も取ったりします。ありえない。
日本では全てが高度な常識と良心で成り立っています。儲けよりも、社会を良くしようとする気持ちのほうが強いと思います。そうでない豪腕経営者もいますが、それでも日本の国を包む常識と良心を無視することはできません。いい意味でのムラ社会です。アメリカは分断分断言われていますが、建国当初から人種が入り乱れて微妙なパワーバランスの上に成立している国であり、そもそも分断された社会です。それぞれのコミュニティで、それぞれの空間とお金を守り、あわよくばどんどん拡張していくために、日々活動しています。なので、アメリカで戦う=世界で戦うためにはまず生産性とはどういうものかを理解する必要があります。生産性の追求はスコアゲームです。極論すればいかにサービスの質を落としてかつ、売上を上げるか。そうやって利益を最大化することこそが、資本主義というゲームを勝ち抜く唯一の方法です。そして、それを客に悟られないようにうまくやる。
生産性という指標は、資本主義ゲームのスコアに過ぎません。
そこに、人間の幸せとか、満足感とか、そんなもんは一切回介在していません。なので、日本の生産性が低い!と言われても、本当のところ気にする必要はないと思います。生産性=金儲けのスキルです。確かに金儲けはできたほうが絶対にいいですが、同時にそれが人生の全てでは絶対にありません。そしてそのうち、金儲けのスキルでいろんなものを測る自体は終わる可能性があります。まぁ、お金は使うにしても貯めるにしても価値を測るにしても、とても便利なものなので、なかなか衰退しないとは思いますが。
人間はお金に対して上位にあるべきです。お金のために、いろいろしんどくなるのは全力で避けなければなりません。そのための勉強だったり、病気にならない生活習慣だったり、そもそもお金を運用する知識だったりは身に着けたほうがいいですけど。日本の良さが強みであるために、勉強していきたいですよね。