乳児の百日咳はヤバイ
息子が生まれたとき、3200グラムぐらいでした。元気な赤ちゃんで即日目も開き、活発に母乳をよく飲んでいました。赤ちゃんというのは母乳からおかあさんの免疫をもらっており、外のウィルスや細菌には強く、6ヶ月間は特に体調も崩すことはない、と高をくくっていました。実際、先の子どもたちのときにはその期間特に具合悪くなることもなく、乳児時代は健康そのものでした。
しかし、皆さん気をつけてください。百日咳の細菌だけは、母乳で共有される免疫を通過します。これ本当にヤバイです。そして息子は生後1ヶ月のとき、実家で変な咳をしていた祖母から感染しました。祖母も熱がなく、咳だけが続いていたので風邪ではないと思っていたようですが、息子も変な咳を連続してするようになり、すぐ小児科に連れて行ったところ、百日咳に感染していたことがわかりました。
月齢1ヶ月、体重4キロの我が息子、そこからは地獄でした。小さな肺に感染した菌は体内に毒素を撒き散らし、一日中咳が続くようになりました。熱はありません。特に夜はひどく、連続した咳が40回程度続くのです。40回ですよ。咳も息継ぎしながら15回ぐらいは息のある、肺から空気の出てくる咳なのですが、それ以降、20回目から40回目ぐらいは吐き出す空気がない状態での咳です。酸素を吸えず、でも反射でどんどん咳が襲ってくる。顔色はどんどん青紫色になりますがなすすべがありません。ようやく40回目の咳が止まって、お水を飲ませて30秒後、次は37回連続の咳が続く…。
上半身をちょっと起こしてあげたり、背中をさすってあげたりするのですが、根本的に咳を止めることはできません。わずか4キロの小さな体で毎晩、夜通し、断続的に咳と戦い続けます。そして私たち親もです。咳が収まり、すやすや寝息を立てる息子を確認して眠りに落ち、またその数十分後に強烈な咳ラッシュで目覚めます。
治療は対症療法しかありません。百日咳の予防接種前ですので、菌は容易に体内に入ってきます。百日咳の猛烈な咳の症状は、菌そのものでなく、菌が出す毒、その名も百日咳毒素というわかりやすい名前の毒素が作用して起こるものです。つまり咳がひどくなり、小児科にかかったときにはすでにその毒素がしっかり体に食らいついている状態だということです。ですので、菌を完全にやっつけても、その毒素が体内に残っている間、約100日間は咳が止まりません。ひたすら、乳児でも飲めるあまり効かない咳止め薬を飲ませ続けます。
1ヶ月の乳児が咳に苦しめられる3ヶ月間。この影響は甚大なものです。通常、3000グラムで生まれた子供は1ヶ月で4.5キロ、2ヶ月で6キロ、3ヶ月で7キロほどになります。1ヶ月に50%も成長する、人間にとってとても大事な時期です。ですが、百日咳に感染していた息子の2ヶ月目〜3ヶ月目の体重増加は−200グラム、つまり全く成長していないどころか、体力の衰えで体重が減っていたのです。これにはビビりました。後遺症の心配もしました。その後、1歳の正月には帰省中に肺炎にかかり、元日に入院しました。百日咳にかかると気管や気管支が敏感になり、呼吸器系のトラブルの頻度が上がるようです。また2歳を過ぎても「あー」しか言えず、4歳近くになってもたどたどしくいくつかの単語が出てくるだけだったりもしました。いろいろと気をつけていたのにノーマークの百日咳に盲点を突かれ、こんなことになってしまった不運を恨みました。
その後の成長は普通の子たちと変わらないように見えます。滑舌は良くないですがよくしゃべり、活発でよく走る前向きな男の子に成長しています。
予防できたとすれば、ともかく赤ちゃんの周りに怪しい症状が出ている人を近づけないこと。これは当たり前のことなのですが、これまでの赤ちゃんでトラブルがなかったこと、出生後しばらくは母乳免疫で無敵、かつその後は予防接種でだいたい大丈夫、と私たちが余裕過ぎたことが重大な結果に結びつきました。何週間も苦しい思いをして大変だった息子を思うと、いまでも心にスッと冷たい風が通り抜けるようです。